大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)220号 判決 1973年1月31日

控訴人 杉山建設株式会社

右訴訟代理人弁護士 寺口健造

右復代理人弁護士 寺口真夫

被控訴人 株式会社大成工機

右訴訟代理人弁護士 富永義政

同 鈴木信司

同 石井文雄

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金七六万八二五〇円およびこれに対する昭和四四年二月九日以降右完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。

本判決は仮に執行することができる。

事実

一、控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求(当審拡張部分を含お)を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求め、当審において訴の一部を取下げ、かつ、請求の拡張をなし、請求の趣旨を「控訴人は被控訴人に対し金七六万八二五〇円およびこれに対する昭和四四年二月九日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。」と訂正した。

二、当事者双方の事実上の主張および証拠関係は次に付加するほかは原判決事実摘示(原判決二枚目表五行目から六枚目裏三行目まで)と同一である(但し、原判決二枚目裏末尾より二行目中「金二五、六五〇円」とあるを「金一三、一五〇円」と、三枚目裏末尾おり二行目から末行にかけて「金七八〇、三〇〇円」とあるを「金七六八、二五〇円」と別紙第一表中一五の単価「一〇〇」とあるを「二〇〇」と各訂正し、第二表五・六・七の各記載を削除する。同表三の月日欄に「8・27」とあるは訴状添付第二目録(三)の記載が誤記と認め「11・9」と訂正する。)から、これを引用する。

(控訴人の主張)

次の事実もまた被控訴人は本件取引の相手方が訴外成和建設株式会社であることを知っていたことを裏書きするものである。

即ち、

控訴人は成和建設が昭和四三年一二月一七日倒産したので、同月一八日残工事を施工し、その際被控訴人の機械類を使用したのであるが、そのために新たに搬入されたのはモーターコンベア七米(ソケツト付のもの)一台だけであって、その他は成和建設が使用していたものを継続して使用したのである。ところが、被控訴人は本件取引が毎月二〇日締切りで請求し支払を受ける約束であったといいながら、原判決添付第一表記載一・二・六・一三・一四の各物件については昭和四三年一二月一七日まで賃貸し賃貸借終了後引取ったと主張し、右同日をもって締切った請求書(甲第四号証の一・二)を発行する一方、これと別途に昭和四四年一月一三日付の請求書(乙第二号証)をもって右各物件を昭和四三年一二月一八日以降賃貸したとして賃貸料の請求をしているのである。しかも、右乙第二号証の請求書による請求については控訴人がこれに応ずる旨表明しているのに拘らず受領しようとしない。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張事実中被控訴人が控訴人に対し昭和四四年一月一三日付請求書を送付した事実は認めるも、その余の主張は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

一、被控訴人が建設機械等の賃貸・販売を業とする会社であり、控訴人が建築工事等の請負を業とする会社であること、控訴人が東京都から杉並区高円寺南四丁目における下水道埋設工事を請負っていたことは当事者間に争いないところ、被控訴人は、まず、控訴人に建設機械を賃貸し、長靴等を売渡し、また控訴会社の依頼により機械の修理をした、と主張する。よって、この点について判断する。<証拠>を綜合すると、

被控訴人の社員小崎権之助は昭和四三年八月二一日右工事現場(以下本件工事現場という。)にある控訴人の現場事務所で新正治(控訴人の本件工事の現場代理人)と名刺を交換して面談し、本件工場現場での工事のために必要とする機械を賃貸することとし、同日付で賃借人を控訴人、賃貸人を被控訴人とする賃貸借契約書が作成されたこと、そして、その後本件工事現場からの申出により同月二二日から被控訴人はその建設機械置場から本件工場現場に搬入し、長靴・安全靴を売渡し、また機械の修理をし、右賃貸・販売・修理物品の搬入時には納品書と複写になっている控訴人名義の受領書に概ね受領者のサインを貰って引渡したこと、右の取引には被控訴人主張のとおりの取引(以下本件取引という)が含まれていること

以上の諸事実が認められ、原審および当審証人新正治の各証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右できる証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人と被控訴人間に本件取引がなされたものと認むべきものの如くであるけれども、本件取引以前の取引について訴外成和建設株式会社振出の小切手をもって決済のなされたことのあることが当事者間に争いなく、前掲甲第二ないし第四号証の各一・二、第九号証および原審竝びに当審証人新正治の各証言によれば、前記契約書の賃借人担当者欄にサインし、貼付された印紙に割引したのは成和建設の本件工事現場の現場監督佐々木洋悦であって、成和建設は昭和四三年一二月一七日まで本件工事を一括して控訴人から下請をしておったこと、前記受領書に新正治がサインしたこともあったがその場合はと表示していることがそれぞれ認められ(右認定を左右できる証拠はない。)、これらの事実を合せて考えれば、本件取引をするに至った契約が控訴人と被控訴人間に成立したとみるべきではなく、被控訴人と成和建設間に成立したとみるのが相当である。右判断に抵触する原審および当審証人小崎権之助・原審証人坂本市郎の各証言は採用しない。

以上のとおりであるから被控訴人の第一次的主張は採用しない。

二、次に、被控訴人は本件取引が控訴人と成和建設の契約に基づくものであることを前提として、控訴人に右契約につき責任があると予備的主張をする。よって、この点について判断する。

(一)被控訴人主張の写真であることについて当事者間に争いのない甲第八号証の一・二に原審証人小崎権之助の証言および弁論の全趣旨によると、本件工事現場には「杉山建設現場事務所」という看板が二枚掲げられているのみで他に成和建設の工事現場を示す標識はなかったこと、前記契約書の賃借人欄の記載および担当者のサインは新の指示により前記佐々木洋悦がしたものであることが認められ、右事実と前認定の本件取引のなされるまでの事情および本件取引の状況を綜合すれば、控訴人は明示的ではなかったにしても少くとも黙示的には成和建設が控訴人の商号を用いて取引することを許諾しており、被控訴人は本件取引の相手方は控訴人であると信じていたものと推認するのが相当である。当審証人畔上の証言中右判断に抵触する部分があるが、右は当審証人小崎権之助の証言と対比して容易に措信できない。そして、他に右判断を動かすに足る資料はない。

尤も、被控訴人の売上帳(甲第五号証の三)には、成和建設が下請をしていた期間中即ち昭和四三年一二月一七日までの分が記帳され、控訴人が右期日以後被控訴人から機械類を賃借し本件工事現場で自ら工事を施工した(当審証人新正治の証言によって認められる。)に拘らず、前記売上帳には右賃貸料等の記載がなく余白のままであることが明らかであり、また、原審証人小崎権之助・同坂本市郎の各証言によれば、被控訴人は本件工事現場での取引については毎月二〇日締切りで賃貸料等の請求をし支払を受ける約束であったことが認められるのに、被控訴人は成和建設が下請をしていた期間の最終日である昭和四三年一二月一七日をもって締切った請求書を発行する一方控訴人に対しては同年一二月一八日以降の賃貸料について別途請求書を発行していることが前掲甲第四号証の一・二および成立に争いのない乙第二号証と弁論の全趣旨によって認められ、成和建設振出の小切手で取引代金の決済のなされたことのあることも前認定のとおりである。

しかしながら、原審証人坂本市郎の証言によると、被控訴人の売上帳の記載は請求書を発行した後になされることとされていることが認められ、当審証人小崎権之助の証言によれば工事現場の作業が終れば約定の締切日以前に締切って請求書を発行することもあり、また、作業が一旦終り機械を引取った後でも検査に合格しないため工事をやり直す必要あるとき同じ機械を搬入することもあること、さらに成和建設振出の小切手を受領したのも、一旦は控訴人の振出したものではないという理由で拒絶したがこの次からは控訴人振出のものにするといわれてのことであって、しかも成和建設が下請として作業しているということを知ってのことではなかったことがそれぞれ窺い知られ、このことと、前認定のように契約書・受領書がすべて控訴人名義になっていること、請求書も控訴人宛を明示して発行されていること(前掲甲第二ないし第四号証の各一・二によって明らかである。)に徴すれば、前記の諸事実は被控訴人において契約の相手方が成和建設であることを知らなかったとの前記判断を左右する資料とはならない。

(二)しかるところ、控訴人は被控訴人が取引の相手方を右のとおり誤認したとしても重大な過失があるという。

なるほど、控訴人主張のとおり、本件工事のごとき請負工事にあっては、請負人が下請業者を使用することが常識といえるであろうし、現に本件工事現場での器械の賃貸料を成和建設に請求している業者もあったことが当審証人新正治の証言により成立の認められる乙第五号証の一・二、第六ないし第九号証によって窺うことができ、また、成和建設振出の小切手をもって支払を受けたことがあることも前示のとおりであるけれども、本件取引をするに至った経過と取引状況・小切手授受の事情として認定した前記事実を併せ考えれば、前記事情をもって被控訴人に契約の相手方を誤認したことに過失ありとすることは相当ではない。况んや重大な過失ありとする控訴人の抗弁は採用できない。

三、しからば、他に主張立証なく、本件訴状送達の日の翌日が昭和四四年二月九日であること記録上明らかな本件においては、被控訴人の本訴請求は全部理由がある。

よって、右と趣旨を同じくする原判決は相当であって本件控訴は理由なく棄却すべく、当審において拡張した請求についてもこれを認容すべきであるが、被控訴人は当審において訴の一部取下もしているので、これを明らかならしめるため原判決を変更し訴訟費用の負担、仮執行の宣言について民事訴訟法第九六条・第八九条・第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 綿引末男 宍戸清七)

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